本研究では、任意のアミノ酸配列と構造を持つペプチドについて、遺伝子を細胞外から細胞内、更に核内にまで輸送する能力について検討した。オリゴペプチドのペプチド鎖長の影響について、リジン、トリプトファン、システインからなるオリゴペプチド、KWCWK、KWKWCWKWK、KWKWKWCWKWKWKを合成し、遺伝子発現能力を調べた。結果は、アミノ酸数5個、13個のものでは発現が見られず、ある程度の鎖長が必要と思われるが、13個のペプチドはToffMassの結果、S-S結合による2量体を生成しておらず、また化学的に不安定であるため導入能力が劣ると考えられる。更に、ペプチド/DNA複合体の細胞内取り込み機構について検討するため、エンドソーム内のpHを上昇させリソソームでの分解を抑えるクロロキンの効果を調べた。オリゴペプチドではクロロキン50μM添加により約4倍以上増加したが、MAPの場合ほとんど変化がなかった。オリゴペプチド/DNA複合体はエンドサイトーシスにより取り込まれると考えられるが、MAPの場合他の機構を考慮する必要がある。ペプチドによってDNA複合体の細胞内での取り込み機構が異なるのは注目される。 これまで得られた結果をまとめると、合成ペプチドの遺伝子導入及び発現の能力は、1)リジン、アルギニンなどの塩基性アミノ酸を含むこと、2)ロイシン、トリプトファンなどの疎水性アミノ酸の含有により発現効率が向上すること、3)オリゴペプチドの2量体、MAPの樹枝状構造など、ある程度の空間的広がりを持つこと、4)DNAとの複合体の細胞内取り込み機構はペプチドにより異なることが判った。今後、DNA複合体のキャラクタリゼーション、細胞内導入機構について更に詳細に検討する必要がある。
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