研究概要 |
L-ヒスチジンは、生体内において酵素histidine ammonia-lyase(E.C.4.3.1.3)によりウロカニン酸に代謝される。本研究では、L-ヒスチジンの側鎖3位あるいはイミダゾール環の5'位が重水素化された2種類の安定同位体多重標識体を合成した。これらの標識体をヒトに経口投与し、in vivoにおけるL-ヒスチジンからウロカニン酸へのアミノ基脱離反応機構を解明した。 安定同位体で標識されたL-[3,3-^2H_2,1',3'-^<15>N_2]histidine (L-His-M+4)あるいはL-[3,3,5^'-^2H_3-1',^<15>N_2]histidine(L-His-M+5)100mgを健常成人2名に経口投与し、血液・尿を24時間にわたり経時的に採取した。生体試料中の内因性、投与由来のLーヒスジンとウロカニン酸はGC/MS/SIM法により定量されたが、相対誤差、変動係数はいずれも5%以下であり、本法は高い精度と再現性を有していることを確認した。 L-ヒスチジンの側鎖3位あるいはイミダゾール環5'位における重水素ー水素交換の経時変化から、ヒトin vivoにおけるLーヒスチジンのアミノ基脱離は、カルバニオンを経る可逆的stepwise機構で進行すること、in vivoにおける可逆反応の平衡は、生成する代謝物ウロカニン酸の体内動態に大きく依存して変化することを明らかにした。また、カルバニオン中間体に至るL-ヒスチジン3位のC-H結合開裂過程は、アミノ基脱離反応の律速段階として寄与していることが予想された。本研究は、in vitroにおいて解明された酵素反応機構をヒトin vivoにおいて直接的に証明した最初の例である。
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