研究概要 |
本研究の目的は、シスプラチン耐性がん細胞(L1210)に対して高い活性を有する新規複核白金錯体と核酸との結合様式を物理化学的手法により詳細に検討し、その結果を基にして、核酸構造の変化と作用発現機構との関連を考察することにある.本研究により得た結果は次の通りである。 1. ピラゾールと水酸化物イオンを架橋剤とする新規白金二核錯体(錯体1)を調製し、錯体1がピラゾール架橋を保ったまま核酸塩基と結合することを^1H-NMR,HPLCなどにより認めた。 2. GC塩基配列含量の異なる二種のDNAを用いて錯体1とDNAとの反応動力学を検討した結果、錯体1はシスプラチンと同様に高いGC塩基対選択性を有することを認めた。また、錯体1は4種の塩基のうちグアニン塩基とのみ反応することをHPLCおよびキャピラリー電気泳動法により認めた。 3. 白金錯体存在下および非存在下での融解温度の差(ΔTm)を求めた結果、シスプラチンでは、白金結合数が小さい場合はΔTm値が負、白金結合数が大きくなるとΔTm値が正の値となった。一方、錯体1では、白金結合数の多少にかかわらずΔTm値が20℃と大きかった。錯体1は低濃度においても核酸のグアニンを認識し、鎖間結合するものと推定した。 4. 本複核白金錯体の分子特性から判断して、核酸に結合した際の白金-白金間の距離を制御することにより、核酸構造の微小構造の歪みを制御することが可能となる。また、白金-白金間の距離と細胞毒性との相関を考察することも可能となるので、今後さらに研究を進めたい。
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