研究概要 |
本研究では、ステロイド性抗炎症薬のサイトカイン産生抑制作用機序として、MAPキナーゼ活性化抑制作用が関与しているかどうか解析した。 1. ステロイド性抗炎症薬のMAPキナーゼの活性化抑制作用 ステロイド性抗炎症薬dexamethasoneがMAPキナーゼファミリーのひとつであるc-Jun N-terminal kinase(JNK)の活性化を抑制することを見出した。このとき、転写因子AP-1の構成因子であるc-Junのリン酸化も抑制された。したがって、dexamethasoneはJNKの活性化を抑制することにより転写因子の活性化を抑制することが示唆された(J.Immunol.161:4939-4943,1998)。 2. MAPキナーゼ活性化阻害によるIL-4産生の抑制 RBL-2H3細胞における抗原刺激によるIL-4産生は、p38MAPキナーゼ(p38)とJNKの活性化を抑制するphosphatidylinositol 3-kinaseの阻害薬wortmanninおよびLY294002で抑制された。またp38阻害薬SB203580もIL-4産生を有意に抑制した。これらの結果から、MAP kinaseの活性化を抑制するとIL-4の産生が抑制されることが明らかになった(投稿中)。一方、wortmanninおよびSB203580や、AP-1の転写活性を抑制するレチノイドは、IL-4産生を最大でも50%程度抑制するに過ぎなかった(投稿準備中)が、dexamethasoneはIL-4産生をほぼ完全に抑制した。したがって、ステロイド性抗炎症薬のサイトカインの産生抑制機序として、MAPキナーゼの活性化抑制作用およびAP-1の活性抑制作用以外の作用機序も存在すると考えられる。 3. ステロイド性抗炎症薬のMAPキナーゼ活性化抑制作用の分子機序 DexamethasoneのERKの活性化抑制作用の分子機序として、MAPキナーゼキナーゼキナーゼのRaf-1の膜移行ではなくその後のリン酸化を抑制することが示唆された。 以上のように、ステロイド性抗炎症薬のサイトカイン産生抑制機序のひとつとしてMAPキナーゼの活性化抑制作用が明らかになった。今後、MAPキナーゼの活性化を抑制する薬物が強力な新規抗炎症薬になることが期待される。
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