研究概要 |
昨年の研究成果として,ナトリウムポンプ型NADHキノン・リダクターゼ複合体(NQR)の遺伝子は6種の構造遺伝子からなり,6種のサブユニットは高度に精製した複合体に存在することが確認され,各サブユニットのN末端分析から,遺伝子上の読み枠が実験的に確定された(FEBS Lett.,422,240-242,1998).本年度は高度に精製したNQR複合体の各サブユニットを精製・分離し,各サブユニットからのNQR複合体の再構成を試みた.この実験から,6種のいづれのサブユニットもNa^+依存NQR複合体の形成に必須であることが確かめられた.しかし,今のところ疎水性サブユニットであるNqr2,Nqr4,Nqr5をそれぞれ分離して精製することはできず,これらの複合体内での役割は明らかでない.一方,各サブユニットについて,pET29ベクターを用い,大腸菌での大量発現系の構築を進めている.今の所,nqr全遺伝子を挿入したプラスミードの大腸菌での発現は成功していない.おそらく,膜タンパク質の大量発現あるいはその複合体構築が大腸菌の生育に異常をきたすものと予想される.そこで,nqr遺伝子の様々な部分をプラスミドに導入し,特に疎水サブユニットに注目しながら,サブユニット発現系の構築を目指している.すでに,親水性サブユニット(Nqr1,Nqr3,Nqr6)の発現についてはある程度の成果を得ているが,これらのサブユニットの機能解析を精製NQR複合体で確立した再構成法を用いながら進めていく.なお,最近海洋細菌の増殖を特異的に阻止するユニークな抗生物質,コロルミシが発見され,この物質はナトリウムポンプ型NADH-キノン・リダクターゼ複合体を特異的に阻害することが明かとなった(J.Antibiotics に投稿).今後,NQR複合体の構造・機能解析に特異な化合物として,その有効利用が期待される.
|