最近、ヒトを含めた哺乳類に高濃度に存在することが明らかになったD-アミノ酸、特にD-アスパラギン酸の生理的機能を明らかにするための基礎的研究として、抗D-アスパラギン酸抗体を調製し、ラットを材料に、松果体、副腎の組織内における存在部位や分布を免疫組織化学的に明らかにした。 今年度は、まず、ポリクローナルな抗D-アスパラギン酸抗体の調製を行った。ウシ血清アルブミンとD-アスパラギン酸とをグルタルアルデヒドで結合させた抗原を、ウサギ背中皮下に投与した。同時に、金コロイド粒子と抗原とを混ぜ、ムラミルペプチドとともに静脈内に投与した。得られた抗血清を、D-アスパラギン酸をリガンドとするアフィニティークロマトグラフィーにより精製し、特異抗体を得た。この抗体は、D-アスパラギン酸を特異的に認識し、L-アスパラギン酸に対しても約100倍以上の反応性を有しており、他のアミノ酸とはほとんど反応しなかった。 この抗体を用いて成熟ラットの松果体を染色したところ、D-アスパラギン酸は松果体実質細胞の細胞質に存在することが明らかになった。また、松果体ホルモンであるメラトニンの合成を主に行っている遠位部側の実質細胞に局在していた。また、副腎髄質には、アドレナリン産生細胞とノルアドレナリン産生細胞とが存在するが、D-アスパラギン酸はアドレナリン産生細胞に局在していた。また、幼弱ラットの副腎皮質においては、束状帯と網状帯に存在するのに対して、成熟ラットでは球状帯に局在し、成長とともに存在部位が変化することが明らかになった。このように、D-アスパラギン酸は、ラット組織内で特定の成長時期に特定の細胞群に局在することが示唆された。
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