ヒトを含めた哺乳類に高濃度に存在するD-アスパラギン酸(D-Asp)の生理的機能を明らかにするための基礎的研究として、抗D-Asp抗体を調製し、ラットの種々の組織内における存在部位や分布を免疫組織化学的に明らかにした。今年度は、昨年度に調製することができたポリクローナルな抗D-Asp抗体を用いて、ラット胎児の脳とラット精巣の免疫組織染色を行った。 胎生12日齢のラット胎児脳の染色では、成熟の進んだ中脳から後脳にかけてD-Aspの免疫反応が認められた。14日齢では免疫反応は脳全体に広がったが、出生後0日齢では、免疫反応が著しく減少した。このことは、D-Aspの定量結果と良く対応していた。胎生12齢での免疫反応は、神経管の外層の神経芽細胞の細胞体と突起部分に認められた。一方、胎生14日齢では、免疫反応は神経管の最外層である辺縁層に認められた。この層は、より分化の進んだ神経芽細胞の軸索から成る層である。以上の結果は、D-Aspが初め神経芽細胞の細胞体に出現し、のち突起や軸索にその存在部位を変えることを示唆している。実際、より分化が進み神経管の構造が複雑になった胎生18日齢の終脳では、軸索を含む中間層と辺縁層に免疫反応が局在していた。 成熟したオスラット(6週齢)の精巣では、精細管の内側に存在する精子細胞に免疫反応が認められた。特に、分化が進み細胞体が長くなった後期精子細胞(Elongate spernatid)に局在していた。3週齢のラットでは、精子細胞はまだほとんど生じておらず、D-Asp含量も約1/3であるが、この週齢では、D-Aspの免疫反応はより未成熟な精母細胞に認められた。また、Methoxyacetic acidを用いて後期精子細胞を特異的に破壊したところ、D-Aspの含量と免疫反応がともに有意に減少した。このように、D-Aspは、ラット組織内では特定の細胞群に局在すること、また細胞内の存在部位が変化する場合があることが示唆された。
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