研究概要 |
本研究の目的は,壁細胞をモデル系として分泌活性化に伴う細胞骨格系蛋白の生理的役割を明らかにすることであった.平成10年度の目標は(1)クローニングしたエズリン部分配列のどの部位にPKAリン酸化部位が存在するかを確定すること,(2)壁細胞内に蛋白を導入する系を創出し,小胞や細胞骨格の働きをより直接的に検討可能にすることであった.(1)に関しては,協力者の米国Georgia大学Goldenring教授によって,ウサギエズリンの全長がクローニングされたが,それによれば,全長にわたりPKAでリン酸化されるサイトは皆無であることが分かった.これとときを同じくして,胃粘膜から部分精製したエズリンがPKA依存的にリン酸化され,ここにエズリンのC末部分を加えるとC末部分もリン酸化されること,しかしPKAとエズリンC末のみではリン酸化が起こらないことが判明した.すなわち,エズリン自体はPKAではリン酸化されず,胃粘膜にはPKAによって活性化される新規のキナーゼが存在して,これがおそらくエズリンのC末をリン酸化しているものと考えられた.これは,当初計画とは異なるが,はるかに興味深いテーマとして発展し,現在,この未知のキナーゼを同定すべく実験を継続中である.(2)に関して,βescinによる透過性胃底腺モデルを作成し,機能ペプチドを細胞内へ導入する系を確立することに成功した.この系を用い,PKAの阻害ペプチドばかりでなく,ミオシン軽鎖キナーゼ阻害ペプチドがcAMP刺激酸分泌を抑制することを見いだした.また,小胞輸送に関わると思われる小分子GTP結合タンパク質の機能ペプチドを用い,これらの関与可能性を示し,壁細胞小胞輸送系における細胞骨格間連蛋白の相互作用を解析する道を開いた.これらの結果については現在投稿中である.また,透過性細胞系開発の過程で見いだされた知見をまとめ,2報の論文として公表した.
|