薬物の脳移行性を制御する血液脳関門の物質輸送機能に関する研究を行った。対象物質としては、生理的物質のアミノ酸、モノカルボン酸系化合物、および塩基性ペプチドを用いた。このような化合物の血液脳関門輸送について、ウシあるいはラット脳毛細血管内皮細胞の初代培養脳毛細血管内皮細胞を用いた膜輸送実験、および分子生物学的手法による研究成果として以下の結果が得られた。 血液脳関門には塩基性ペプチドの脳内移行にはたらくadsorptive-mediated endocytosis機構が備わっており、基質としては過度な塩基性度や脂溶性は本メカニズムを介した効率的な内在化に必ずしも適さないことが明かとなった。しかしその認識性は比較的幅広いものであり、ペプチドの塩基性化による脳内デリバリーの可能性が示唆された。 弱酸性薬物については従来よりトランスポーターが介在することが示唆されていたが、その実体は明かではなかった。本研究では、研究代表者らがラット小腸から遺伝子クローニングに成功したモノカルボン酸トランスポーターMCT1が血液脳関門に存在することを、培養細胞を用いることにより明らかにした。すなわちRT-PCR法により本トランスポーターが血液脳関門に存在することが明かとなり、さらに乳酸などの物質輸送測定により、その機能発現も示された。 アミノ酸には種々の輸送系が存在するが、ナトリウムおよびクロライド依存的なβアミノ酸輸送系が血液脳関門に存在することが機能的に確認できた。 以上のような脳毛細血管内皮細胞に備わるトランスポーターの詳細について、遺伝子発現系などを用いた分子論的な解析、ならびに膜輸送機能のin vivoへ外挿によって、血液脳関門の生理機能解明が今後可能である。
|