脳毛細血管内皮細胞によって形成される血液脳関門は脳ー循環血液中の物質交換を厳密に制御しているが、その制御機構は単なる密着結合による静的障壁のみならず、細胞膜透過に働くトランスポーターやエンドサイトーシス機能により、ダイナミックインターフェースとして物質移行制御システムを形成している。しかしながら、血液脳関門機能を構成するトランスポーターなど分子的実体についてはほとんど明らかになっていない。平成10年度の成果として、従来から現象論的解析によって示唆されていたモノカルボン酸輸送系に着目し、トランスポーター分子の実態解明を行った。研究代表者は小腸よりモノカルボン酸トランスポーターとしてMCT1遺伝子のクローニングに成功しているが、その組織分布から血液脳関門における存在が考えられた。しかし、機能解析ならびに分子論的情報の豊富なラットの血液脳関門研究のin vitroモデルは不十分であった。そこで本研究では、まずラット脳毛細血管内皮の初代培養細胞を基にSV-40ウィルスベクターを用いた不死化細胞の樹立を行った。スクリーニングの結果血液脳関門機能を維持した細胞株RBEC1が得られた。初代培養ならびに不死化RBEC1細胞とも遺伝しレベルでのMCT1の存在が確認された。両in vitro血液脳関門モデルを用いた機能解析の結果、両細胞とも乳酸や安息香酸の輸送特性が一致し、さらにそれらは別途検討を行ったMCT1遺伝子導入細胞における輸送特性とも一致するものであった。また、in vivo BUI法による乳酸、安息香酸の脳移行特性とも良く対応した。RBEC1におけるMCT1の発現をアンチセンスDNAを用いて抑制したところ、安息香酸輸送は顕著に低下した。以上の結果より、従来より示唆されていた血液脳関門モノカルボン酸輸送系としてMCT1が重要な役割を果たしていることを明らかにできた。
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