研究概要 |
申請者らはこれまでに神経系を介する胃内アスコルビン酸分泌系の存在を証明したが(Biochem.Pharmacol.,53,553-559,1997)、本研究課題ではこの分泌系が体液性機序を含めた生理的な応答であることの更なる証明と、消化管粘膜におけるアスコルビン酸の生体防御への関与および胃内アスコルビン酸分泌動態の異常と疾患との関わりの解析を目的としている。まず、各種脳-腸管関連ペプチドについてラット胃内潅流法で測定した結果、コレシストキニンオクタペプチド(CCK-8)が強力な分泌促進活性を有することを見出した。この活性は副交感神経作動薬であるカルバコールに匹敵するものであり、その作用はCCK受容体遮断剤で完全に阻害された。これらの結果から、胃内アスコルビン酸分泌は神経系のみならず、CCKを主とする消化管ホルモンによる体液性の制御をも受けるものであり,アスコルビン酸分泌がヒトの胃においても生理的に機能する応答であることが強く示唆された(これらの結果は近日中に投稿予定)。現在、この分泌メカニズムを細胞レベルで明らかにするため、ラット胃粘膜細胞初代培養系を構築しており、予試験的ながらカルバコールやCCK-8特異的な分泌応答を確認している。次年度に向けてはこの系に関与する輸送担体および受容体を分子レベルで明らかにする予定である。一方、このラット胃内アスコルビン酸分泌系が喫煙要因によっても著しく阻害されることを、主要成分であるニコチンやその主要代謝物であるニコチンの静脈内投与で証明した。喫煙者の血中濃度に基づいた投与量でCCK-8による胃内アスコルビン酸分泌は有意に抑制され、特に空腹時の喫煙により胃内の抗酸化的防御能が低下することが確認された(この成果についても論文作成中)。これらの成果は酸化的ストレスの関与する各種胃疾患(萎縮性胃炎、胃潰瘍、粘膜壊死等)の発症時の胃内アスコルビン酸分泌動態の重要性を示唆するものであり、化学物質による胃粘膜障害の発生や腸管粘膜免疫応答の変化や老化などとの関連を解析する次年度の課題に向けての基礎となるものである。
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