本研究課題では、新たに見出した胃内アスコルビン酸分泌系が神経性のみならず体液性制御をも受ける生理的な応答であることを証明し、さらに消化管粘膜におけるアスコルビン酸の生体防御への関与および胃内アスコルビン酸分泌動態の異常と疾患との関わりを解析することを目的とした。まず、分泌促進機構については、各種の脳-腸管関連体液性ペプチドについてラット胃内潅流法で解析した結果、コレシストキニンオクタペプチド(CCK-8)がその特異的受容体を介して強力な分泌促進活性を示すことを見出し(論文発表)、これまでのムスカリン性アセチルコリン受容体を介する神経系との二重支配下にあることを明らかにした。これによりこの分泌系が、胃内残留物の少ない空腹時においても機能し、胃粘膜における生体防御に関与すること、及びヒトの胃においても生理的に機能することが強く示唆された。また、この分泌メカニズムをラット胃粘膜遊離細胞初代培養系でも解析し、カルバコール(コリン作動薬)やCCK-8に特異的な分泌応答を確認したが、分泌担当細胞の特定は研究期間内ではできなかった。一方、分泌動態と疾患との関わりについては、この胃内アスコルビン酸分泌が喫煙、特に主成分であるニコチンやその主要代謝物コチニンで有意に抑制されることを見出し、喫煙者の胃内抗酸化活性が減弱し、粘膜防御能が低下する要因となることを示唆した。この結果は、胃内における空腹時アスコルビン酸量の減少が現代病の主要な要因であるラジカルや活性酸素による胃病変発症に密接につながる傍証となるものである。しかし、急性胃病変モデルでの胃内アスコルビン酸分泌実験は完了しておらず、分泌異常と疾患との因果関係までは明らかにできなかった。アスコルビン酸がその強力な抗酸化作用により免疫賦活、解毒蛋白誘導、細胞老化抑制作用を発揮することが分子レベルで最近明らかにされてきたことから、本研究課題で得られた一連の成果は消化管粘膜細胞におけるこれらの生体防御能に対しても分泌されたアスコルビン酸が合目的的に機能することを示すものとして意義がある。
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