本研究を通して以下の成果を得た。 1. 内因性アスコルビン酸の胃内分泌機構をさらに解析し、新たにコレシストキニン受容体を介する体液性の分泌応答を見出した。これまでの成果から、胃内アスコルビン酸分泌系は神経性、体液性の二重の支配を受けることが明らかになり、食事摂取時のみならず、空腹時においても機能する(後者の機能の方がより生体防御目的に合致していると考えられる)ことが支持された。コレシストキニンによるアスコルビン酸分泌に対しては、たばこ煙成分、特にニコチンやコチニンによる抑制が確認され、喫煙による消化管粘膜疾患の要因の一つとして胃内アスコルビン酸分泌の低下が示唆された。 2. 胃粘膜細胞初代培養系においてin vivo系の刺激剤が細胞レベルにおいてもアスコルビン酸分泌刺激作用を発揮することを認めた。また、ラット小腸上皮細胞にアスコルビン酸特異的な輸送担体が存在することを示した。これまでのウシ血管内皮細胞におけるアスコルビン酸取込み実験結果と合わせて胃粘膜におけるアスコルビン酸輸送系のモデルが構築できた。 3. 胃内に分泌される内因性アスコルビン酸の生埋的役割の一つとしてニトロソアミン生成抑制作用が確認された。このことは特に空腹時における胃粘膜細胞防御に重要な役割を果たすものであり、消化管粘膜疾患の発症に胃内アスコルビン酸分泌も重要な関わりを示すものであることを示唆した。 4. 胃内におけるアスコルビン酸は生体防御機構の“first barrier"の1つとして働くものである。現代社会ではストレス、喫煙、環境汚染物質、食品添加物、医薬品など多様な要因が胃内アスコルビン酸分泌系に影響を及ぼし、その結果として免疫系や解毒機構の障害、さらには老化時の生体防御能の低下などにも関連すると考えられ、ヒトにおける胃内アスコルビン酸動態の解析は今後さらに重要な課題である。
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