申請者は、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST-P)遺伝子の発現制御機構について研究し、転写を負に制御するサイレンサーおよび抑制因子の存在を明らかにしてきた。また、ビタミンDレセプター(VDR)の標的配列をゲノムから単離したところ、その断片が負の調節能力を有していることを明らかにしてきた。そこで本研究ではGST-P遺伝子のサイレンサー結合蛋白質の機能ドメインの解析およびVDRの標的遺伝子の単離について検討し、以下のことを明らかにした。 1)サイレンサー結合蛋白質Nuclear Factor(NF1)はファミリーを形成しているが、この中のNF1-Aが抑制活性を有していることを明らかにした。さらに不活性化ドメインの同定を行った。また、NF1-Aのゲノムクローンを単離し全ゲノム構造を明らかにした。 2)NF1-Bについては3種類のスプライシングアイソフォームの存在を明らかにし、これらの転写調節に及ぼす影響について検討し、状況に応じて正負両方の機能を持つことを明らかにした。さらに、負の活性を示す機能ドメインのマッピングも行った。 3)他の2つのファミリー、NF1-CおよびNF1-Xと上記のNF1-A、NF1-Bの4つのNF1ファミリーについて、DNA結合性の検討を行い4種間の性質の違いを明らかにした。 4)すでに単離したVDR標的断片が負に制御していると思われる遺伝子のクローニングを行い、数種のアイソフォームを単離した。これらの組織における発現は多様性を示した。また、この標的断片には甲状腺ホルモンレセプターも作用し、VDRとは逆に正の制御を示した。ビタミンDと甲状腺ホルモン両方に正負に制御される遺伝子の存在は極めて珍しく、その作用機作の解明は今後の課題である。
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