本年度は、前年度に引き続き、細胞内カルシウム流入で惹起されるカルシウムシグナル依存的な神経細胞死抑制機構について、さらに検討を加えた。 1. 神経細胞活性化因子の検索:細胞質膜の脱分極によって誘起される電位依存性カルシウムチャネル(VDCC)からのCa^<2+>流入で、一連の遺伝子群(カルシウム応答遺伝子群)の発現変化が起こる。本年度は、セクレトグラニンII(Sg-II)遺伝子の他に、PACAP(Pituitary adenylatecyclase activating polypeptide)遺伝子がCa^<2+>シグナルに応答して活性化されることを認めた。また、その新規のスプライシング産物を発見した。そのプロセッシング産物であるPACAP38は、脳由来神経栄養因子(BDNF)と同程度の強い細胞死抑制効果を示した。 2. カルシウム応答遺伝子群の転写制御系の解析; ラット大脳皮質初代神経細胞培養系において、リン酸カルシウム法を用いた簡便なDNAトランスフェクション系を確立した。現在、BDNF遺伝子プロモーターIの解析を進めている。また、他にSg-IIやニューロトロフィン-3遺伝子のプロモーター解析も同時に進めている。現在、Ca^<2+>シグナルの関わった制御系について、新たな知見を得つつある。 3. カルシウムとミトコンドリア活性化; 小脳顆粒細胞では、非脱分極によるCa^<2+>流入欠如でアポトーシスが誘起される。この際、鉄-硫黄酵素であるアコニターゼの不活性化が起こる。これは、ミトコンドリア内に発生した活性酸素種によって引き起こされている可能性が強い。また、アコニターゼの不活性化とともにマンガン型スーパーオキシドジスムターゼの発現減少が認められた。現在、Ca^<2+>シグナルでコントロールされるミトコンドリア代謝活性と遺伝子発現との関連についてさらに検討中である。
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