先に我々は、ヒト皮膚線維芽細胞並びに種々のヒト白血病細胞株が肝細胞増殖因子(HGF)を産生・分泌することを見出し、これらの細胞を用いてHGF産生制御因子を探索した結果、誘導因子としてC及びAキナーゼ活性化剤、種々の増殖因子などを、また、抑制因子としてTGF-β及びデキサメタゾンを明らかにした。本研究ではHGF産生調節作用を有する生体内生理活性物質をさらに探索したところ、インターフェロン-γ(IFN-γ)がKG-1並びにRPMI-8226ヒト白血病細胞株からのHGF産生を強く促進することを見出した。この誘導はHGFmRNAレベルの増加を伴い、他の既知HGF誘導剤の作用と同程度もしくはより強いものであった。IFN-α及びIFN-βも両細胞によるHGF産生を促進したが、KG-1細胞における作用はIFN-γよりも弱かった。一方、ヒト皮膚線維芽細胞のHGF産生に対しては、IFN-γが弱い誘導作用を示すのみで、IFN-α及びIFN-βは無効であった。しかし、本細胞ではIFN-γは8-ブロモ-cAMPによるHGF誘導を著しく増強した。一方、IFN-α及びIFN-βはこのような増強作用を示さなかったが、IFN-γによる増強を抑制した。本細胞でIFN-γはまた、他のcAMPレベル上昇薬やインターロイキン-1βによるHGF誘導も増強した。このようなHGF誘導剤とIFN-γの相乗作用はすべてのHGF誘導剤で観察されるわけではなく、EGFやCキナーゼ活性化ホルボールエステルのHGF誘導作用はIFN-γにより逆に抑制された。ヒトHGF遺伝子のプロモーター領域には、他のIFN-γ応答性遺伝子で明らかにされているIFN-γ活性化配列(GAS)が存在しており、これが本誘導に関与しているものと推察される。IFN-γは肝の障害やDNA合成阻害、アポトーシスを引き起こすことが知られているが、本サイトカインが同時にこれらの作用と拮抗するHGFを誘導するという今回の知見は、肝再生と修復におけるホメオスターシス調節機構の存在を示唆するものと考えられる。また、我々はヒト胎児肺線維芽細胞からのHGF産生は培養内加齢により増加することを報告しているが、これはインターロイキン-1によるオートクリンなHGF誘導が原因であることを明らかにした。
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