脳内亜鉛の5-10%はグルタミン酸作動性ニューロンのシナプス小胞に存在する。この亜鉛はカルシウムインパルスによりシナプス間隙に放出され、グルタミン酸受容体等に作用し、興奮性のシナプス神経伝達を調節すると考えられている。小胞性亜鉛の機能を検討するために、ラットに低亜鉛食を与え、脳内亜鉛量を測定したところ、海馬の亜鉛濃度が低下することが明らかになった。さらに、細胞分画法により亜鉛濃度の低下した画分を調べたところ、海馬シナプトソーム画分の亜鉛量が低下していることが明らかになった。一方、成長したラットに低亜鉛食を与えるとステップスルーテストによる受動的回避能が可逆的に低下することが明らかになった。これらの結果より、海馬の小胞性亜鉛は学習能に関与することが示唆される。 てんかんモデルであるE1マウスは発作を誘発することによって、海馬の亜鉛濃度が低下する。このマウスを隔離飼育したところ、侵入マウスに対する攻撃性が顕著に高まることが見いだされた。そこで、ddYマウスを隔離飼育し、低亜鉛食を与えて攻撃行動を観察した。その結果、低亜鉛食を与えて2週間後において、マウスの攻撃性が顕著に高まることが明らかになった。また、攻撃性の増大における低亜鉛食の効果は発育期のマウスにおいて顕著であったが、通常食を与えることによって、攻撃性は低下することが明らかになった。 以上より、シナプス小胞の亜鉛はグルタミン酸による興奮性神経伝達の調節に重要であることが示唆される。
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