フェニルエタノイド配糖体であるアクテオシドはこれまでにマクロファージ、株化内皮細胞(GEN-T細胞)に作用し、サイトカインの産生、細胞接着因子の発現を誘導することを明らかにしてきた。一方、アクテオシドは各種の癌細胞に対して、細胞致死活性を示すことを明らかにしてきた。そこで、細胞活性化と細胞致死活性のシグナル伝達系に異同があるかどうかを検討した。アクテオシドを培養液中に添加すると1〜2分のかなり早い時間からスコポレチン法で検出できる量の過酸化水素が産生されることを見いだした。その産生はアクテオシドの用量に依存しており、また、カタラーゼの処理で検出されなくなった。 そこで、過酸化水素の産生量とGEN-T細胞、HL-60RG細胞の細胞死の誘導能の関係を調べたところ、過酸化水素の産生量に増加に伴い細胞死の誘導の増強が観察された。さらに、アクテオシドを添加する前にカタラーゼを添加しておくことにより、アクテオシドによる細胞死は阻害された。一方、GEN-T細胞をアクテオシド処理することにより誘導される細胞接着因子の発現は、カタラーゼの前処理により影響を受けないことより、細胞接着因子の発現誘導には細胞外で産生された過酸化水素は関与していないことが明らかとなった。これまでに、マクロファージ、GEN-T細胞の活性化のシグナル伝達経路には、少なくともタンパク質リン酸化酵素、カルシウムと活性酸素が関与することが明らかにされているが、少なくとも、過酸化水素などの活性酸素、過酸化水素を介したタンパク質リン酸化の亢進は関与しないことが本研究で明らかになった。 次に、アクテオシドの臨床応用を考え、アクテオシドの癌転移に及ぼす効果を検討した。マウス肥満細胞種(P-815)を尾静脈内移入して肝特異的癌細胞転移モデルを作成し、アクテオシドの延命効果を調べたところ、アクテオシドは癌細胞を移入したマウスの平均死亡日数を延長する作用を示した。さらに、今後、シグナル伝達系に及ぼす影響、癌転移に及ぼす効果についてさらに詳細な検討が必要とされる。
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