本研究課題の目的は、ドコサヘキサエン酸(DHA)の循環器疾患に対する予防薬あるいは治療薬としての可能性を探るために、DHAの血管細胞主に血管平滑筋細胞機能に及ぼす影響を明らかにすることであった。そこ培養血管平滑筋細胞を用いて細胞増殖性及びアンギオテンシンIIにより引き起こされる細胞肥大に対するDHAの影響をフローサイトメトリーにより検討したが有意な影響は認められなかった。そこで次に平滑筋細胞の細胞内カルシウム代謝と一酸化窒素(NO)産生に対するDHAの影響を検討した。脳卒中易発症高血圧自然発症ラット(SHRSP)及びその対照動物であるウィスター京都ラット(WKY)由来の培養血管平滑筋細胞をDHA含有培養液で培養処理したところ、アシギオテンシンIIやセロトニンなどの血管収縮性物質による細胞内カルシウム濃度上昇作用がWKYでは有意に抑制されたが、SHRSPでは抑制されにくかった。この抑制作用は電位依存性チャネルなどのカルシウムチャネルの抑制によるが、ストアー作動性チャネルの抑制ではないことが示唆された。また、誘導型NO合成酵素(iNOS)によるNO産生に対するDHA処理の影響を検討したところ、WKYに比べてSHRSPではIL-1β刺激により誘導されるNO産生能が低下していた。DHAと共に培養することにより、WKY由来の血管平滑筋細胞ではIL-1β刺激によるNO産生量が有意に増加したが、SHRSPでは影響が現れにくかった。NOS発現に対するDHAの影響をウエスタンプロット法を用いて検討し、DHAはWKYにおいてiNOS蛋白発現を促進したが、SHRSPでは影響が認められなかった。また、DHAにはNOによると考えられる細胞障害を抑制することも示唆された。これらのDHAの平滑筋細胞に及ぼす作用がDHAの循環器疾患に対する有用性に関連していることが示唆された。
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