平成9年度研究実績報告 マウスに種々の処理を行い実験的炎症を起こさせ、IHRPの誘導を調べた。テレピン油あるいはLPS処理後24時間でそれぞれ血中IHRP量は正常の5倍以上に増加した。塩化水銀処理による腎炎でも血中IHRP量は5倍程度増加した。一方、四塩化炭素による肝炎では48時間後に血中IHRP量は完全に消失したが、96時間後に正常にまで回復した。四塩化炭素によるこの変化は、IHRPの唯一の合成部位である肝臓が障害を受け、合成、分泌が低下したものと思われる。炎症時におけるIHRPの体内分布を組織染色により調べた。薬物処理による炎症部位への沈着などは観察されなかったが、正常腎において近位尿細管細胞細胞質が抗IHRP抗体で染色され、腎臓におけるIHRP結合蛋白質の存在が示唆された。IHRP結合セファロースを用い、腎臓よりIHRP結合蛋白質を部分精製しアミノ酸配列を調べた。IHRP結合蛋白質は分子量30kDaで、得られた部分アミノ酸配列はアネキシンに高い相同性を示した。IHRPの発現機構をマウスIHRP遺伝子のプロモーター領域のDNA断片を用いゲルシフトアッセイで調べた。未処理マウスの肝核抽出液ではシフトは認められなかったが、テレピン油処理後3、6時間後のマウス肝核抽出液でシフトが認められた。同じDNA断片を用いDNA結合蛋白質をアフィニティー精製したところ、正常肝核抽出液には存在しない、120、90、65kDaの3種の蛋白質が確認された。また、同じ核抽出液を抗STAT3抗体でしらべたところ、STAT3が顕著に増加していることが確認された。以上のことからIHRPは急性期蛋白質であり、その発現にはSTAT3が関与していることが判明した。
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