本研究は、有効な抗癌剤が少ない固形癌細胞に対するゲラニルゲラニオール、ビタミンK2および種々のイソプレノイド化合物のアポトーシス誘導能を調べ、その誘導機構を明らかにすることを目的として行われた。ゲラニルゲラニオールは調べたヒトの固形癌由来細胞株12種の全ての癌細胞に対し増殖阻害作用を示した。IC_<50>値は30〜90μMであった。これに対し測鎖にゲラニルゲラニル基を有するイソプレノイド化合物であるビタミンK2(メナキノン4)は、調べた固形癌細胞の中で、膵臓癌細胞株2種のうちのMIA PaCa-2、および卵巣癌細胞株 TYK-nuにのみ選択的にアポトーシスを誘導した。他のイソプレノイド化合物のアポトーシス誘導能はゲラニルゲラニオールやビタミンK2に比べて低かった。 ゲラニルゲラニオールおよびビタミンK2によるアポトーシス誘導機構をヒト卵巣癌TYK-nu細胞およびヒト白血病 U937細胞を用いて調べた。ゲラニルゲラニオールによるアポトーシス誘導におけるシグナル伝達では、JNK および Caspase-3が活性化され、Caspase-3はJNKの上流に位置することが示唆された。これに対し、ビタミンK2処理ではJNK等のMAPキナーゼの活性化は起こらず、抗アポトーシス作用のあるBcl-2の減少が認められた。また、タンパク合成阻害剤や核酸合成阻害剤によりアポトーシスが阻害されたことより、ビタミンK2によるアポトーシス誘導には新たなタンパク合成が必要であることが示された。以上の結果より、ビタミンK2の作用機構は、ゲラニルゲラニオールや癌化学療法剤によるアポトーシス誘導機構とは異なると結論した。
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