薬毒物や環境汚染物質により自己抗体が産生され、自己免疫性の腎炎や皮膚炎が生じることがあるがその機序は明らかになっていない。カドミウム(Cd)、水銀などの重金属はポリクローンBリンパ球活性化(PBA)に伴い自己抗体の産生を誘導する。本研究は、このPBAの誘発機序を明らかにするため、T-Bリンパ球の相互作用に必須なMHC-II分子に注目し、CdによるPBA誘発におけるMHC-II分子の役割の解析を行った。そのため、BALB/cマウスの脾細胞を培養し、CdによるPBA誘発時のMHC-II分子であるIa抗原の必要性と量的変化について検討し、以下のことを明らかにした。 (1) 抗Ia抗体のCd誘発PBA反応の阻害効果の解析:培養脾細胞の表面抗原の抗体処理実験でに抗Ia抗体処理がPBA反応を鋭敏に阻害し、PBA反応におけるIa抗原の必要性が示された。さらに、抗Ia抗体の処理条件の検討から、PBA反応にはCd添加後24時間以内のIa抗原発現が重要であることが明らかとなり、早期段階のIa抗原発現はT-B細胞の相互作用に関係すると推定される。 (2) PBA反応におけるIa抗原発現量の解析:Cd添加後の培養脾細胞における免疫細胞種とIa抗原発現量の変化をフローサイトメトリーにより測定した。培養細胞のIa抗原発現量を経時的に測定すると、Cd処理により脾細胞のIa抗原発現量が増加し、さらに、細胞種別に測定すると、Ia抗原は大部分がBリンパ球上に発現し、Cd処理により24時間後には発現細胞の比率と細胞上のIa抗原密度が増加することが示され、CdがBリンパ球のIa抗原発現量を増すことが明らかとなった。 上記の結果により、CdによるPBA反応の誘発には、MHC-II分子であるIa抗原のBリンパ球における発現が必要であり、その量の変化と時期が重要な役割を有していることが示された。抗体産生反応の早期段階では、T-Bリンパ球の相互作用にMHC-II分子が必須の役割を果たしていることから、化学物質の刺激によりその過程が促進され、PBA反応が誘発された可能性が示唆された。
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