ペルオキシソーム膜ABCトランスポーターのうち、ペルオキシソーム膜の主要構成タンパク質である70kDaタンパク質(PMP70)の機能を明らかにすることを目的として、正常ならびに部位特異的変異PMP70を過剰発現したCHO細胞を作製した。 野生型PMP70過剰発現CHO細胞では、palmitateのβ酸化が約3倍亢進した。一方lignocerateのβ酸化は約半分に低下した。さらに、過剰発現ならびに対照細胞よりペルオキシソームを単離し、palmotoyl-CoAを基質としATP+、-の条件下でβ酸化能を比較すると、ATP添加によりβ酸化が亢進するとともに、亢進の程度は過剰発現細胞ペルオキシソームの方が高いことが示された。次いで、ABCtransporterの構造上重要と考えられるEAA motif、Walker Amotifの部位特異的変異ならびにWalker B motifの一部を含むC末端の欠失変異をもつPMP70過剰発現細胞を用い、palmitateのβ酸化を検討した。するとその酸化能が、対照細胞と比較し、顕著に低下することが明らかになった。 一方、野生型、変異型PMP70過剰発現CHO細胞、対照細胞を用い、ペルオキシソームのサイズと数を免疫電顕ならびに蛍光抗体法で解析した。その結果、これらの細胞間で、ペルオキシソームのサイズならびにその数にはほとんど差がないことが明らかになった。またペルオキシソーム膜ゴーストをもつZellweger症候群においても、PMP70はペルオキシソーム膜ゴースト上に存在していた。以上の結果より、PMP70はATPを駆動力とする長鎖acyl-CoAに特異性をもつ輸送担体であり、機能上EAAモチーフ、WalkerA、Bモチーフが重要であること、ペルオキシソーム膜の形成、増殖には関与していないことが明らかになった。他のペルオキシソーム膜ABCトランスポーター、ALDP、ALDRP、P70Rに関しては、それぞれの安定過剰発現CHO細胞を作製中であり、今後に期待される。
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