活性酸素などの酸化的ストレスによる生細胞の老化に対する高度不飽和脂肪酸(PUFA)の防御効果を明らかにすることを目的に、平成9年度では、PUFAの質や量の異なる植物油および魚油をラットに一定期間給餌し、ラット体内での脂質過酸化度にどのように影響するのかどうかを、赤血球を用いて検討した。また、赤血球が酸化的ストレスをうけると膜タンパク質が凝集することが明らかになっていることから、赤血球膜タンパク質の凝集に与える影響について調べた。 4週令Wister系ラットを通常食で1週間飼育後、n-6 PUFA含有量の多いサフラワー油群、n-3系PUFA含有量の多い魚油群に分け、6週間飼育した。飼料はコーンオイル欠乏のAIN-76にvitamin E含量を揃えた各油脂を5%添加して調製した。赤血球の膜リン脂質脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーにより分析すると、n-3系及びn-6系PUFA含有量は、サフラワー油負荷では2%、39%、魚油負荷では22%、13%であり、食事脂肪中の脂肪酸の違いが赤血球膜脂質の脂肪酸組成に反映していることがわかった。赤血球から膜脂質を抽出し高速液体クロマトグラフィー・ケミルミネッセンス法およびチオバルビツール酸試験により脂質過酸化度を測定した結果、両群間では同程度であり赤血球膜の脂肪酸組成の違いは膜脂質過酸化度に影響を与えていないことが示された。両群の赤血球を膜ghostとした後、膜のタンパク質構造に影響を与えない緩和な界面活性剤で処理し可溶化されない成分を膜タンパク質凝集物として単離した。その定量結果も両群間で差がなく、脂肪酸組成の違いは膜タンパク質に対しても影響を与えていなかった。摂取されるPUFAの質や量を上昇させると赤血球膜の脂肪酸組成はそれを反映するが、PUFAは生体内においては、酸化的ストレスによる脂質過酸化や膜タンパク質凝集のような酸化的傷害を助長するようなことはないと思われる。
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