延髄の縫線核に発する下行性セロトニン神経は、脊髄前角部において骨格筋を支配する運動ニューロンとシナプスを形成し、ヒトや動物における筋緊張・歩行運動の制御に関わっているが、そこで働くセロトニン受容体の種類や制御の機構の詳細は不明である。脊髄ラットにおける筆者らの従来の研究では、セロトニン2受容体の選択的な作動薬は脊髄単シナプス反射を増強するが、他のセロトニン作動薬は単シナプス反射を抑制している。本年度の研究においては、セロトニン1A受容体のアゴニストとされる8-hydroxy-dipropylaminotetralin(8-OH-DPAT)の光学活性体を用いて、単シナプス反射電位に対する作用を調べ、セロトニン受容体の種類と働きについて研究した。 脳と脊髄の連絡があるラットにおいては、静脈投与の低用量8-OH-DPATのR体およびS体は単シナプス反射を増強した。R体の増強作用には上位中枢のセロトニン1A受容体および下行性セロトニン神経系の関与が示唆された。一方、S体の単シナプス反射増強作用には非セロトニン1A受容体および下行性ノルアドレナリン神経系の関与が示唆された。高用量投与ではR体のみが脊髄反射の抑制作用を示した。 脳と脊髄の連絡を切り離したラットにおいては、高用量のR体は単シナプス反射を抑制したが、そのS体は影響しなかった。予想に反し、R体の抑制作用はセロトニン1A受容体の拮抗薬では抑制されず、セロトニン1A以外の受容体の関与が示唆された。 以上より、脊髄反射の抑制作用におけるセロトニン1A受容体の役割は小さいこと、一方、脊髄上位におけるセロトニン1A受容体を介した脊髄反射増強の機序があることが示された。
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