延髄の縫線核に発する下行性セロトニン神経は、脊髄前角部において骨格筋を支配する運動ニューロンとシナプスを形成し、ヒトや動物における筋緊張・歩行運動の制御に関わっているが、そこで働くセロトニン受容体の種類や制御の機序の詳細は不明である。これらの解明により運動ニューロン変性疾患や痙性麻痺などの治療に責献できると考えられる。本年度は以下の2つの研究をおこなった。1)麻酔ラットの下行性セロトニン神経からの脊髄くも膜下腔へ放出されるセロトニンをHPLCで測定する系を用いて、セロトニン取り込み阻害薬および中枢性筋弛緩作用を有する薬物のセロトニン濃度への影響を調べた。セロトニン選択的取り込み阻害薬fluvoxamineとfluoxetineはセロトニン濃度を増加した。セロトニン取り込み阻害により抗うつ作用を示すとされているamitriptylineはセロトニン濃度にほとんど影響しなかった。平成10年度の研究で、この用量のamitriptylineは脊髄5-HT2受容体を完全に遮断したことより、その脊髄反射抑制作用を5-HT2受容体の遮断によると考えられた。中枢性筋弛緩作用を有するdiazepamはセロトニン放出を抑制し、これが筋弛緩作用に関与する可能性が示された。2)平成9年度の研究で、8-OH-DPATの脊髄単シナプス反射抑制作用が5-HTIA受容体を介さないことが明らかになっている。本年度は、8-OH-DPATが親和性を示す5-HTIDおよび5-HT7受容体の関与について検討した。5-HT7受容体に親和性を有するmethiotepinにより8-OH-DPATの単シナプス反射抑制作用が拮抗されたが、methiotepinは他の受容体へも作用するため、今後は選択的に拮抗薬を用いる予定である。
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