研究概要 |
活性型ビタミン誘導体の構造と活性との関連性を明らかにする目的で,種々のD誘導体の合成を行い生物活性試験を行った。また,これらの誘導体を用いることにより活性型ビタミンDの作用機構についての新たな知見を得ることができた。 (1)活性型ビタミンD_3のA環10(19)位のメチレン基を脱離した誘導体(19-nor誘導体)及びA環1位と3位の水酸基の立体配置を変化させた誘導体の生物活性を検討した結果,A環3位水酸基がβ位にある誘導体は白血病細胞HL-60に対して増殖抑制・分化誘導活性を有し,1βあるいは3α位に水酸基を有する誘導体はアポトーシス誘導活性が高いことを明らかにした。 (2)A環2β位に種々の置換基(側鎖)を導入した誘導体の生物活性を検討した結果,側鎖末端に水酸基を有するものあるいは工ーテル結合を有する誘導体は1,25(OH)_2D_3と同等の転写活性を示し,DBP結合性が高いことを明らかにした。この結果は,この種の置換基の導入が血中安定性の向上に有用であることを示唆す。さらに骨粗鬆症モデルラットを用いた実験から,骨粗鬆症の予防あるいは治療に有効と思われる化合物を特定することができた。 (3)A環2αあるいは2β位にメチル基を導入し,同時に1位あるいは3位の水酸基あるいは20位の立体配置を変化させた誘導体の生物活性を検討した結果,20位の異性化、2α位へのメチル基の導入が生物活性を著しく増強することを確認した。また、これまで生物活性を減弱させると考えられてきた1β位水酸基誘導体の中に高活性を示す誘導体(2β-methyl-20-epi-1β,25(OH)_2D_3)が存在することを見いだした。 (4)活性型ビタミンD_3の側鎖22-23位二重結合と24位メチル基導入による影響を検討する目的で,1,25-ジヒドロキシビタミン-D_<2'>-D_<3'>-D_<4'>-D_7および24-エピ-1,25-ジヒドロキシビタミン-D_2の生物活性を検討した。その結果,24位のメチル基がS配位の場合,1,25(OH)_2D_3と同等の活性を維持するが,R配位で導入された場合はVDR結合性と遺伝子転写活性が低下することを明らかにした。 (5)活性型ビタミンDのNongenomic作用について検討した結果,活性型ビタミンDやその誘導体OCTは一過性の細胞内Ca濃度上昇作用を示すが,1β位に水酸基を有する誘導体がこの作用のAntagonistとして働くことを明らかにした。 (6)活性型ビタミンDの免疫抑制作用機序の一つとして,IL-2の遺伝子上流に存在するNFATsiteにVDRが結合することにより遺伝子転写が抑制されることを見いだした。また,活性型ビタミンDが腎臓のリン輸送担体遺伝子上流の特異的DNA配列を認識し,その発現調節を行うことを明らかにした。 以上の結果は,骨粗鬆症や白血病治療に有効なビタミンD誘導体のドラッグデザインに有益な情報を与えたとともに,免疫抑制剤として活性型ビタミンDが応用できる可能性を示唆するものであった。また,VDR結合能を基本とした従来の誘導体評価法の考えに加え,活性発現におけるVDR以外の因子の重要性を強く示唆する結果を得た。
|