分子生物学的手法によりATP受容体チャネルをアフリカツメガエルの卵母細胞に発現させ、その構造と機能との研究連を探究した。初年度では、脳内の神経伝達物質であるドパミン、セロトニン、および2価イオンである亜鉛、カドミウムの作用をATP受容体の4つのサブクラス(P2X1-P2X4)間で比較検討し、その結果をもとにP2X2受容体に改変を加え、構造と修飾機構との相関性等の性質を解明した。さらにランタン等の3価イオンがATP受容体チャネルに対してアロステリックな機序で強力な抑制作用を示すことを見いだした。次年度においては、ATP感受性、イオン透過機構等、ATP受容体チャネルの基本的な機能と構造との関連について検討を加えた。その結果、P2X2受容体の315番目のアスパラギン酸残基がATPの感受性に関与すること、333番目のアスパラギン残基がイオン透過に関与することを見いだした。最終年度では、ATPの結合に関わると予想される部位と、イオン・チャネル孔における薬物の作用について改変受容体を用いて検討を加えた。ATP受容体チャネルの7つのサブクラスにはきわめて保存性の高いグリシン残基が集中して存在するという側鎖の大きな残基と置換したところ、247番目と248番目のグリシンに対する置換により、ATPに対する応答性が減弱もしくは消失した。以上のことから、この部位がATP結合に必須の役割を果たす可能性が示された。セロトニン、イミプランのチャネル孔への作用についての検討では、これらの薬物の作用が正常型/チャネル孔改変型において異なることが判明し、チャネル孔が標的となっている可能性が示唆された。以上の結果より、この分子生物学的手法を利用した発現系が薬理学的解明においてきわめて有用であることが示された。
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