平成9年度のアレルギー担当細胞である好塩基球細胞の情報伝達におけるエクトキナーゼの役割の解明に関する研究から、下記の知見が得られた。 (1)エクトキナーゼ阻害剤による脱顆粒反応の抑制:細胞非透過性のセリン・スレオニンキナーゼ阻害剤K252bを用いて、ラット好塩基球細胞(RBL.2H3)及び人好塩基球細胞からの種々の刺激に伴う脱顆粒(ヒスタミン遊離)反応への影響を調べたところ、IgE受容体の架橋形成に伴う脱顆粒反応のみ容量依存的に抑制することが判明した。また、脱顆粒の抑制は、刺激後に試薬を加えても引き起こされた。(2)初期シグナルの解析:RBL.2H3細胞の抗原刺激に伴うカルシウム応答におけるK252bの影響を調べたところ、試薬を刺激の前後、どちらに加えた場合にも抗原刺激に伴う細胞外からのカルシウム流入の抑制が観察された。また、細胞に[γ.^<32>P]ATPを加えて行った細胞表面蛋白質リン酸化反応においては、抗原刺激に伴ってリン酸化反応の亢進する130kDa蛋白質のリン酸化反応が、K252bによって、用量依存的に抑制された。 これらのことより、好塩基球細胞のIgE受容体の架橋形成に伴う脱顆粒反応に、エクトキナーゼの関与すること、また、エクトキナーゼの抑制により、カルシウム流入の抑制が引き起こされることが判明し、IgE受容体の近傍にエクトキナーゼの存在すること、その基質蛋白質のリン酸化を介して、好塩基球の情報伝達のうち、カルシウム流入を含むごく初期過程に作用することが示唆された。現在、エクトキナーゼ本体の単離精製、及び、その内因性基質の同定を進めている。
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