最近、細胞内のCa動員を担う新しいセカンドメッセンジャーとしてサイクリックADP-リボース(cADP-リボース)が見いだされたが、酵素的に速やかに代謝されるばかりか、中性水溶液中でさえ容易に加水分解を受ける(半減期40時間)程不安定なために、その機能は十分解明されるに至っていない。 cADP-リボースはADPリボースのリボース部1-位とアデニン環のN1-位が分子内で、β-グリコシド結合した大環状構造を有するが、この分子内N-グルコシド結合がcADP-リボース水解酵素による切断部位であり、また、非酵素的にもこの部位で加水分解されることが知られている。即ちcADP-リボースの不安定性の原因は、このN-グルコシド結合にある。この知見より申請者は、生物学的にも化学的にも安定なcADP-リボースの等価体としてリボース環の酸素原子をメチレンで置き換えたcADPーカーボサイクリックリボースおよびそのイノシンアナログであるcIDPーカーボサイクリックリボースを設計し、合成を計画した。 今年度は、先ずより合成容易と考えられるcIDPーカーボサイクリックリボースの合成を検討した。その結果、シクロペンタジエンを原料に酵素的光学分割を経てカーボサイクリック部を構築し、イノシンユニットと縮合後、数行程を経て目的化合物を合成することに成功した。 現在、この方法を応用して次の目的化合物であるcADPーカーボサイクリックリボースの合成を検討中である。
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