本研究においては、ラットおよびヒト脳に発現するエステラーゼの分子構造および薬物の代謝や脳移行性における役割を明らかにする目的で検討を行った。ヒト肝エステラーゼのcDNAをプローブに用いて、ヒト脳cDNAライブラリーからスクリーニングを行ったところ、3種のcDNAクローンが得られた。そこで、これらのクローンについて塩基配列の解析を行ったところ、hBrはヒト肝エステラーゼHU1と99.2%配列が一致したが、他の2種のhBr2とhBr3に関しては、これまでに報告のない新しいエステラーゼをコードするクローンであることが判明した。また、それぞれのホモロジーを調べたところ、hBr1とhBr2は79.1%、hBr1とhBr3は76.8%でhBr2とhBr3は、77.3%となり、すべてCES1ファミリーに属するものと考えられた。そこで、これらのクローンを哺乳動物発現ベクターであるpTARGETに組み込み、ハムスター肺由来細胞株であるV79細胞に導入し、発現させたところ、3種のクローン共に高い発現が認められた。次に、これらの細胞を用いて、実際に臨床で使用されているプロドラッグであるテモカプリルの代謝活性を調べたところ、3種のクローン間で著しい特異性の差異が認められたことから、これらのクローンがコードしているエステラーゼの薬物代謝における役割は、それそれ異なっているものと考えられた。このように、今回ヒト脳から新たに2種のエステラーゼが見つかり、プロドラッグに対する特異性が異なっていることが明らかになったことから、構造的特性も含めて、今後エステラーゼの分子種間での役割の解明が期待される。
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