本研究は、生理活性ペプチドの全身クリアランスに占める腎クリアランスの寄与を定量的に評価し、ペプチドの腎挙動、特に尿細管上皮細胞の血管側と尿細管腔側での動態を詳細に検討することにより、利尿効果や腎機能障害など、腎におけるペプチドの薬効や毒性発現の過程を速度論的に解明することを目的とする。 本年は、グリコペプチド系抗生物質バンコマイシンの腎排泄につき検討を加えた。全国19の医療施設から収集された患者のバンコマイシン血中濃度データをポピュレーション解析した結果、バンコマイシンの全身クリアランス(CL)は腎機能が正常な成人患者で平均3.51l/hrであるのに対し、腎障害患者では患者のクレアチニンクリアランス(CLcr)に比例して低下し、CL=0.0478・CLcrの関係が成り立つことを明らかとなった。得られた成人患者における標準的な薬物動態値に基づきノモグラムを作成し、臨床におけるバンコマイシン投与設計に役立てることが可能となった。また、バンコマイシンによる肝機能、腎機能の検査値異常発現率に対して1日投与量の関連性が強いことが示された。さらに、腎機能異常値発現率の影響因子となるトラフ濃度と発現率の関係について、トラフ濃度を10μg/ml以下にコントロールすることにより、発現率を15%以下に抑制できることが示された。 現在さらに、小児におけるバンコマイシン血中濃度データの解析を進めると共に、シクロスポリンAや他のペプチド性医薬品について検討を行っている。
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