本研究は、生理活性ペプチドの全身クリアランスに占める腎クリアランスの寄与を定量的に評価し、ペプチド性医薬品の腎挙動、特に尿細管上皮細胞の血管側と尿細管腔側での動態を詳細に検討することにより、利尿効果や腎機能障害など、腎におけるペプチド性医薬品の薬効や毒性発現の過程を速度論的に解明することを目的とする。 前年度に引き続き、グリコペプチド系抗生物質バンコマイシンの小児における腎排泄につき検討を加えた。全国19の医療施設から収集された小児患者のバンコマイシン血中濃度データをポピュレーション解析した結果、バンコマイシンの全身クリアランス(CL)は患児の体重に比例すると共に年齢に依存し、1歳以下では加齢と共にクリアランスは増加し、1歳以上では加齢と共にクリアランスが低下することが明らかとなった。また、バンコマイシンの分布容積は平均0.522L/kgと推定された。 ペプチド性医薬品で免疫抑制剤として使用されているシクロスポリンの血中濃度モニタリングにおいて、難治性漿膜炎を主症状とする全身性エリテマトーデスの患者で、シクロスポリンの静脈注射の投与量を増加しても血中濃度が上昇しない症例を経験した。この原因につき、ラットを用いて検討した結果、ニトログリセリンの併用はシクロスポリンの体内動態に影響しないこと、カルシウム拮抗剤のニカルジピンの併用はシクロスポリンの血中濃度を上昇させること、静脈内輸液の量を変化させてもシクロスポリンの体内動態に有意な変化は起こらないことが示された。
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