植物の防御システム機構である過敏性反応に深く関与している化合物に、無毒性シグナル分子(エリサイター)と呼ばれる化合物群がある.1993年に従来とは全く異なった非プロテイン性の低分子エリサター、syringolideが単離された.また、より単純な構造を持つ、secosyrin及びsyributinが相次いで単離されている.申請者は、最近、より単純な構造を有するsecosyrin及びsyributun類の全合成を達成したので、次に確率した合成経路に沿って、syringolideの全合成を目的として合成研究を行った. 1) D-酒石酸エステルを出発原料として、水酸基の保護、還元、増炭反応等により、末端に三重結合を有するケトン体とした.このケトン体とtert-butyl 3-oxooctanethioateとのKnoevengagel型反応により、sylingolide側鎖の構築を種々の条件下検討したが、目的の化合物を得るには至っていない.また、thioateの代わりにメチルエステルを用いたが、やはり反応は進行しなかった. 2) D-酒石酸エステルを出発原料として、三重結合部の導入と酸化によりalkynone体とした後、連続的なthioacetateとのアルドール反応並びにhexanoyl基の導入により、1)で得られなかったsylingolide側鎖の導入に成功した.続いて、末端水酸基によるテトラヒドロフラン環構築を試みたが、反応は全く進行しなかった. 3) 2)の結果を踏まえ、thioester部をメチルエステルに変換したところ、閉環反応は進行しテトラヒドロフラン化合物が得られた.次に、三重結合部還元してオレフィン体へと導いた. 現在、オレフィンの酸化的開裂とsylingolide類への誘導を検討中である.
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