角質層のバリヤー機能のため著しく皮膚透過性の低いイオン解離する弱電解質薬物の経皮治療システムの開発を目的として、皮膚内分解性新規経皮吸収促進剤(YKS、7種)を合成し、ラットにおけるin vitro及びin vivo評価を行った。前年度までに以下のことを明らかにした。1) 四級アンモニウム構造を有するグリセリド誘導体であるYKSは、アニオン性モデル薬物として使用したクロモグリク酸ナトリウム(SCG)に対してカウンターイオンとして作用し、脂溶性イオン対を形成することにより皮膚透過性を大きく改善した。2) YKSは、pH安定性試験及び皮膚一次刺激性試験の結果、生分解性で低刺激性であり、有効で安全性の高いカウンターイオンであることが示唆された。3) イオン対形成による経皮吸収促進作用は、YKSによる皮膚前処置との組み合わせによりさらに改善された。本年度は、生体への投与を考慮し、イオン対の溶解性の高い親油性基剤を用いて検討を行い以下の結果を得た。1) プロピレングリコール(15):イソプロピルアルコール(75):イソプロピルミリステート(10)基剤にSCG-YKSイオン対を飽和溶解度まで溶解して適用した場合、SCGの皮膚透過性はSCG単独の場合に比較して、透過速度で約15倍、透過係数で約3倍増加し、イオン対形成による角質層-基剤間分配係数の増加に起因することが判明した。2) in vitro透過実験から求めた透過速度及びラグタイムと静注による体内動態パラメーターを用いてSCGの血中濃度推移の予測を行ったところ、in vivoの結果とは必ずしも一致するものではなかったが、in vivoにおいてもイオン対形成の有効性が明らかとなり、SCGのような水溶性の高い、消失半減期の短い(約24分)薬物に対しても、YKS共存下においては長時間有効血中濃度を維持できることが示唆された。
|