研究概要 |
本研究は,核酸以外の高分子としてポリアミンの作用点となる蛋白質を種々の新規な方法論を用いて検索,同定することで,ポリアミンの枯渇および過剰蓄積による増殖阻害のメカニズムを明らかにすることを目的としている.本年度における研究結果を以下にまとめた. ポリアミンアナログの合成とその作用についての検討:窒素原子間に長いメチレン鎖をもつものを合成したところ,DNAトリプレックス構造の安定化作用をBis(3-aminopropyl)-1,6-diaminohexaneが有することが明らかになり,その類似体の系統的な作用の検討のため1,4-Bis[1-(2,6-diazaoctyl)]cyclohexaneなどの化合物を合成した.オルニチン脱炭酸酵素の不活化タンパクであるアンチザイムの遺伝子が,ポリアミン存在下フレームシフト翻訳調節を行うことに着目して,アンチザイム誘導能を有する化合物の検索を目的として不飽和結合を有するジアミン類を系統的に合成した.また,合成したペンタアミン類について,細胞内タンパク分解に関与することが示唆されているアルギニルトランスフェラーゼに対する阻害効果を調べ,アミノ窒素を多く持つポリアミン類似体ほど阻害効果が強いことを明らかにした. 機能性ポリアミンアナログの合成と応用: 昨年度合成したBiotinylpolyamineをHTC細胞に投与して,標識されるタンパクの検索を行った.その結果,従来細胞内トランスグルタミナーゼのin situな基質検索に用いられてきたBiotinylcadaverineとは異なった成分が,Biotinylpolyamineによってつよく標識されることが明らかになり,ポリアミン構造を有する化合物が細胞内で複数のタンパク成分に結合しうることが分かった.現在,標識成分の精製を試みている. ポリアミンの枯渇,蓄積により影響する細胞機能の解析:HTC細胞における水容積の測定法を確立し,オルニチン脱炭酸酵素阻害剤であるアミノオキシアミノプロパン(AOAP)の投与によりポリアミンを枯渇させた細胞や,スペルミジン投与によりスペルミジンを蓄積させた細胞の水容積を測定した.その結果,AOAP投与ではポリアミン量の低下の後に水容積が減少し,スペルミジン投与では,スペルミジンの蓄積と平行して水容積が減少した.このことから,ポリアミンが水容積あるいは細胞容積の調節に関与する可能性が示唆された.
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