本研究は、顕著な抗ヘルペスウイルス活性が認められた海産性緑藻Dunaliella primolectaC-525の大量培養藻体から、精製された3種の活性画分試料(#23、#26、#27)の構造解析および作用機序に関して検討を行ったものである。まず上記3種の化学構造解析を試みたところ、精製試料#26と#27は、21位のメトキシ基がそれぞれβ位とα位に結合している光学異性体の性質を示す、分子量622のフェオホルビドa様物質であること、また、両物質はポルフィリン環の3位のプロピオン酸がメチルエステルとなり、さらに、21位のプロトンが水酸基に置換した新規フェオホルビドa様物質であることが明らかとなった。一方、#23の物質は、上記の物質と比較して、21位のメトキシ基がα位に結合し、また13位のCH_3基が、CHO基に変わった分子量636の新規フェオホルビドb様物質であることが判明した。さらに、これら3種の化学構造とそれらの抗ウイルス活性および高濃度添加時に観察される細胞萎縮性毒性との関連性を解明する目的で、ポルフィリン環を有する種々の標準品およびこれら標準品から作製した誘導体を用いて、それらの作用濃度と抗ウイルス活性や毒性について検討を行った。その結果、ポルフィリン環に金属が配位しているクロロフィルやクロロフィリンといった化合物は抗ウイルス活性を発現せず、金属が配位していないフェオホルビド様物質には全て活性が観察されたことより、リング内のイミノ基とヘルペスウイルスに何らかの相互作用があることが推察された。この推察は、標準品のフェオホルビドaに銅を配位させて作製した誘導体もまた、その活性を完全に消失するという観察結果からも強く支持された。細胞に対する毒性発現に関しては、ポルフィリン環の3位のプロビオン酸末端がメチルエステル化された物質や13位がメチル基であるフェオホルビドa様物質の場合においては、それらの毒性発現濃度の顕著な低下が認められたことより、細胞膜透過性の問題も含め、リング外の官能基がその毒性発現に深く関与していることが示唆された。
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