本年度は主に性病・梅毒文献渉猟とその研究史を調査する年度であった. すでに昨年度末から今年度当初にかけて、梅毒及びエイズを中心とする性感染症に関する文献に関し、10数年来交流のある英国ロンドンにあるウエルカム医学史研究所研究員及びオックスフォード大学ウエルカム医学史研究所研究員と意見交換を行った.また、そうした西洋文献の収集、解読に着手した. 昨年度に引き続き、日本国内の江戸時代から明治時代にかけての梅毒文献を主に探ることとしたが、日本の文献は少なくまたその所在も限られていた.5月には名古屋大学医学部の書庫を中心に探索した. 6月には、台湾の国立中央研究院から招待を受け、そこで疾病に関する講演の後、研究員と討議・意見交換を行った.また同研究院で中国における梅毒ならびに疾病一般の文献収集を行った.梅毒研究史に関して特に有意義な討議があった. 7月以降は、日本学術振興会の共同研究員として来日したモンタナ大学ラビノビッチ教授と共同で、江戸時代の庶民の疾病に関する心理ならびに想像力に関して集中的に文献検索、ならびに討議した.特に名古屋の蓬左文庫において江戸時代およびそれ以前の医学書を調査、検討した. 8月以降は、主に東京の国立公文書館、国立国会図書館での文献検索にあてた.政府の公式記録の中に、あらたな資料を発掘するためである.また9月以降は、従来すでに収集した文献の整理にあたり、併せて精読を開始した. 12、1月は、これまでに入手した文献に依拠して論文執筆を開始し、紀要にその一部を発表することとした.
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