本研究は遺伝性高チロシン血症における細胞障害と発癌の機序解明する目的で平成9年度と10年度にわたって行った。遺伝性高チロシン血症は新生児期から進行する肝障害と2〜3才で出現する肝細胞癌を特徴とする。本研究ではここで見られる細胞障害と発癌の機序について検討を行った。まず、遺伝性高チロシン血症における遺伝子発現の異常と肝細胞のアポトーシス死、および肝細胞障害の遺伝子治療モデルの確立を目的として、マウスモデルを作成し解析した。このマウスモデルはFAH欠損を持ちながら生存する特殊なもので(Endo et al J Biol Chem 1997)、これを用いることで細胞障害の機序を解明し、発癌と関係する遺伝子発現の異常の発生機序の解明の糸口を得た。これらの研究では細胞内に生じるフマリルアセト酢酸がミトコンドリアからチトクロームCの放出させそれにより細胞がアポトーシスに陥ること、またカスパーゼ阻害剤は完全に細胞死を防止することんばどを明らかにした(Kubo and Endo et al Proc Natl Acad Sci USA 1998)。アポトーシスに伴う遺伝子発現の異常はこの疾患における肝細胞の遺伝子発現の変化を説明するものであった。さらにヒトフマリルアセト酢酸ヒドラーゼ(以下FAH)を発現する組み換えアデノウイルスを作成して、FAH欠損マウス肝細胞でヒトFAHを発現し、この疾患の遺伝子治療の基礎を確立することが出来た。これらの成果は、ヒトの遺伝性高チロシン血症の病態の解明と治療方法の確立に寄与するものと考え、現在はさらに発癌モデルの確立と発癌に至る生化学的機序の解明をめざす研究をすすめている。
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