私たちは、これまでヒトにおいて、保護蛋白質及びリン脂質転送蛋白質遺伝子が互いに相補的に重複して存在していることを明らかにした。そこでマウスにおいても両遺伝子が同様な位置関係で存在していることを明らかにするために、マウスBACライブラリーに対しスククリーニングを行った。その結果、両遺伝子を同時に含むBACクローンを単離する事が出来た。得られたBACクローンのDNAを鋳型としてPCR法によりに、両遺伝子のエクソンを全てカバーするDNA断片を増幅し、両遺伝子のエクソン-イントロンの構成を解析した。マウス保護蛋白質遺伝子は全長約6.5kbからなり、15エクソンより構成されていた。またリン脂質転送蛋白質遺伝子は、約18kbの長さを有し、16エクソンから構成されていた。両遺伝子はポリA附加シグナルを含む3'-非翻訳領域が、互いに逆方向に66塩基重複して存在していた。 上記の様な、互いにアンチセンスの関係にある両遺伝子同士が、その発現に際しどの様に影響し合っているかを、発現実験により明らかにするために、まず両遺伝子のcDNAをマウス由来のcDNAライブラリーから単離した。これらのcDNAを用いて、発現コンストラクトを作製した。マウス保護蛋白質cDNAを発現ベクターに組み込む際に、両遺伝子の相補的重複部分を含んだ完全長cDNAを組み込んだもの、及び重複部分を欠損させ、発現ベクター由来のポリA付加シグナルを利用して、それぞれの重複部分が欠損したmRNAが転写される様にデザインした発現コンストラクトを作製した。さらに、保護蛋白質の欠損症であるガラクトシアリドーシス患者由来で、内在的な保護蛋白質が存在しない株化線維芽細胞に、上記2種類のコンストラクトを導入し、ネオマイシン耐性選択をおこない、恒常的に保護蛋白質を発現している細胞株をそれぞれ樹立した。この細胞株にマウスのリン脂質転送蛋白質発現コンストラクトをそれぞれ導入し、一過性にリン脂質転送蛋白質を発現させた。この系では、アンチセンスでの重複の有無による有為な差は認められなかった。 今後さらに、個々の細胞レベルでの影響が見えるような系を作製して、検討して行きたい。
|