マイクロサテライト多型解析は染色体の起源を詳細に明らかにすることが可能であるが、本研究では隣接遺伝子症候群や原因不明の遺伝性疾患などの発生原因やメカニズムの研究に応用した。ここでは隣接遺伝子症候群の代表例であるAngelman症候群とPrader-Willi症候群について、患児および両親の末梢血からDNAを抽出し、染色体15の動原体近傍から染色体末端までの各領域に存在するマイクロサテライトの多型を調べた。これまで調査した中の2例では両親由来の二つの染色体成分を持つ染色体が確認され、体細胞分裂の段階において起源の異なる染色体(染色分体)間の組み換えによって異常が生じたことが明らかになった。組み換え点が3箇所以上ある複雑な構造異常や起源の不明な構造異常を含むモザイク症例の家系についても、同様に末梢血由来のDNAを用いて組み換え点を挟む領域や異常染色体の各部位のマイクロサテライト多型を解析した。その結果、これらの中にも初期の体細胞分裂における染色体(染色分体)間の組み換えによって生じたものが含まれることが分かった。また、皮様嚢腫についてはその発生起源についてマイクロサテライト多型を用いて解析したところ、全ての例でヘテロの多型パターンを示すことから、減数第一分裂期またはそれ以前の細胞起源であることが明らかになった。一方、実験動物(チャイニーズハムスター系統)の受精卵や発生初期胚に放射線を照射して体細胞分裂時における染色分体間の組み換えの誘発を試みた結果、ヒトで見られるものと同様の異常が起こること、その中には片親性ダイソミーなどの異常も認められた。今回の研究においてもマイクロサテライト多型解析は染色体異常の起源やメカニズムの研究にとって有用であることが示された。
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