我々は、従来よりカルシウム結合蛋白質を介するシグナル伝達機構に関して研究してきた。さらに、その一つであるS100蛋白質に注目し、新しいファミリーを精製、cDNAクローニングし、各々のS100蛋白質ファミーリーの分子機能を解析した。その結果、Sl00Lにおける強力な好酸球走化性活性を見い出した。現在、好酸球の走化性因子としては、補体、PAF、LTB4、インターロイキン5等が知られている。しかし、これらが、どの病態に関与するか、また、それぞれの病態での役割は不明であるのが現状である。新しく見い出した好酸球活性化因子S100Lでモルモット好酸球を刺激し、検討したところLTB4やPAFと同様MAPキナーゼの活性化およびIAP(百日咳毒素)による抑制が認められた。これらの結果により、S100Lは新しい好酸球走化性因子であるだけでなく新しいG蛋白質結合型受容体を介し、好酸球遺伝子発現に作用することが強く示唆された。本研究ではS100L刺激により新しいG蛋白質結合型受容体を介した、MAPキナーゼの活性化がみられたことから、その特異的抗体と既存の抗アレルギー薬と比較しその情報伝達系の解析を行う。さらに、mRNA Differential Display法により変動する遺伝子群を解析し、そのシグナル伝達機構を解析し、最終的にはヒト病態での役割を明らかにすることを目的とする。まず、新しい好酸球走化性因子S100Lをウシ肺から精製し、S100Lに対するポリクロナール抗体を作成した。さらに、ヒトS100Lに対するポリクロナール抗体をペプチドをデザインして作成し、定量法を確立した。組換えヒトおよびモルモットS100Lの発現および精製方法の検討は現在進行中である。S100L特異抗体による走化性などの好酸球機能変化にともなう遺伝子発現の変化について、mRNA differential display法により解析し、変動する遺伝子群を見い出し、さらに検討中である。アレルギー病態モデル動物(卵白アルブミンによる感作モルモットなど)の病態とS100Lの動態を解析したがアレルギー病態によりS100Lの濃度は変動しなかった。
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