我々はこれまで薬物代謝を主とした薬物動態研究に加え、母集団薬物速度論に基づく薬物投与設計についての基礎・応用研究を展開してきた。一方、病態生理学的変動を考慮して薬用量を設定したにもかかわらず、一部の患者に血中濃度の顕著な上昇と重篤な副作用が発現することが以前から指摘されてきた。近年の薬物動態学の進歩によって、この主たる原因が薬物代謝能の遺伝子な欠損による薬物体内動態の変動であることが明らかになってきた。本研究では、抗痙攣薬フェニトインの体内動態に極めて大きな個体差が認められることに着目し、薬物代謝酵素P450分子種の一つCYP2Cサブファミリーの遺伝子診断を進めた。その結果、CYP2C9およびCYP2C19の遺伝的多型と日本人てんかん患者におけるフェニトインの代謝能との間に良好な相関があることを見い出すとともに、CYP2C9がフェニトインの主要な代謝酵素であり、本酵素の変異を有する患者では代謝能が大きく低下することを明らかにした。本研究では、さらに薬物代謝酵素の遺伝子診断情報を利用した個別投与設計法の開発を行った。すなわち、母集団動態解析の手法を用いて、フェニトインの代謝におよぼすCYP2C9およびCYP2C19変異の影響を定量化するとともに、得られた日本人てんかん患者の母集団薬物動態パラメータ、および個々の患者の遺伝子診断結果に基づく個別投与設計法の開発と評価を行った。
|