小腸をはじめとする消化管粘膜は極性を有する上皮細胞で覆われており、広大な表面積を持つと共に、投与の簡便な部位として遺伝子治療の格好のターゲット組織と考えられる。消化管上皮細胞に分泌性の生理活性タンパク質をコードした遺伝子を極性をもつこの細胞に導入し、発現させた後方向選択的に分泌させることができれば、新しいタンパク質医薬品のデリバリー戦略として意義深いものと考えられる。そこで本研究では、消化管上皮細胞に分泌性タンパク質の遺伝子を導入させることによるデリバリーの可能性を検討する目的で、種々の生理活性を有するインターフェロン-β(IFN-β)の遺伝子をモデルとして選択し、培養細胞を用いた検討を行った。実験には、ヒト大腸癌由来で培養初期にはcrypt様の性質を有し、培養日数の経過と共に小腸のvilliに存在する細胞に分化することの知られているCaco-2細胞を用い、マウスおよびヒトIFN-βの遺伝子導入実験を行った。また比較のため、皮膚上皮細胞Pam-T、腎上皮細胞MDCKおよびLLC-PK1を対象に取り上げ、同様の検討を行った。Transwell上で培養した系を用いてカチオン性リポソームによるトランスフェクション実験を行い一時的な発現を検討したところ、IFNの種に関わらずLLC-PK1を除く3種の細胞において遺伝子導入を行った方向に選択的に活性を保持したIFN-βが分泌されることが明らかとなった。さらに興味深いことに、Pam-T細胞において両方向から種の異なるIFN-β遺伝子を同時に導入したところ、添加した種のIFN-βが導入を行った方向に優先的に分泌された。一方、各細胞についてマウスおよびヒトIFN-β安定発現株を作製し、構成的分泌を解析した結果、用いた4種いずれの細胞においても各IFN-βは、頂側膜側および側底膜側にほぼ均等に分泌されてくることが明らかとなった。以上、本研究では消化管をはじめとする上皮細胞をターゲットとした遺伝子デリバリーのアプローチにおける有用な基礎的情報を得ることができた。
|