本研究では、各情動状況が医薬品の体内動態および薬力学的効果にどのような影響を与えるかを検討するために、動物(ラット・マウス)に快・不快状況を設定し検討した。今回医薬品としては狭心症治療薬ニコランジルおよび抗てんかん薬ゾニサミドの動態および薬力学的作用について検討した。 平成9年度は、まずラットの飼育環境状況の変化時について検討した。新しい環境に移動(軽度のストレス負荷)時、ニコランジルの血中濃度は低下した。一方ゾニサミドについては著明な変化は認められなかった。次にラットにおいて、外側視床下部電気刺激により誘発される脳内自己刺激行動時(快状況)と金網で拘束時(不快状況)のニコランジルの血中動態を検討した。その結果、快状況時のニコランジル経口投与時の動態は吸収過程が軽度抑制されるとともに排泄過程は促進された。一方ニコランジルおよびゾニサミド両薬物とも拘束ストレス負荷により吸収および排泄過程が抑制された。さらに拘束時は消化管の炭末輸送能の抑制が認められた。 平成10年度は、前年度の薬動学的検討に加えて、予試験的に行ったストレス負荷時の薬動・薬力学な結果を踏まえて、抗てんかん薬ゾニサミドについて詳細に検討した。すなわち薬物動態に著明に影響に及ぼす不快情動条件(拘束ストレス)時に、ゾニサミドの抗てんかん作用を最大電撃けいれん法により非負荷群のそれと比較した。その結果、まず溶媒投与時では拘束ストレス負荷群では強直性伸展けいれん(TE)時間を有意に延長した。ゾニサミド50mg/kg投与時では拘束ストレス負荷群においてTEの発現時間を有意に短縮した。さらにTE発現頻度についても20および50mg/kg投与群で抑制が認められた。 以上のように各種の情動状況は、狭心症治療薬ニコランジルおよび抗てんかん薬ゾニサミドの体内動態および薬力学的作用に影響及ぼすことが明らかになった。本研究の結果は、臨床における薬物治療において患者の情動状況が薬物の体内動態ならびに薬物効果に影響を与える可能性を示唆した。
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