研究概要 |
高血圧自然発症ラット(SHR)においては血管周囲神経のうちカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)含有血管拡張性神経が減弱し、その減弱が抗高血圧薬のアシジオテンシン(A)変換酵素(ACE)阻害薬およびAII受容体拮抗薬によって改善されることを平成9年度の研究で明らかにした。本年度はこの機序を明らかにするため、以下の実験を行った。8週齢SHRを用い、各種抗高血圧薬を飲料水に溶解して与え7週間投与した。抗高血圧薬としてカルシウム拮抗薬 (amlodipine)、ACE阻害薬(enalapril,temocapril)、AII受容体拮抗薬(TCV-116)、血管拡張薬(hydralazine)を選択した。15週齢時に麻酔下に頚動脈血圧を測定した結果、抗高血圧薬投与群のいずれにおいても有意な血圧下降が観察された。次にこれらの抗高血圧薬長期投与ラットの脊椎を開き、脊髄後根節を摘出し、RNAを抽出した後、(CGRP)mRNAをノーザン法にて測定した。また、同時に上腸間膜動脈および心房を摘出し、組織CGRP含有量を酵素抗体法(ELISA)にて測定した。無処置15週齢SHRのCGRPmRNA発現量は同週齢WKYに比較して有意に低かった。また、SHRにおけるCGRPmRNA発現量は加齢(8,12,15)に従って減少した。一方、無処置15週齢SHRにおける上腸間膜動脈および心房におけるCGRP含有量は同週齢WKYに比較して大きかった。抗高血圧薬の長期投与SHRの脊髄後根節におけるCGRPmRNA発現量は無処置SHRと同程度で差はみられず、WKYよりも低いままであった。また、組織CGRP量も変化しなかった。以上の結果、SHRではCGRP合成能が加齢にしたがって減少し、神経終末のCGRP遊離が減少していると考えられる。ACE阻害薬の長期投与はCGRP神経の伝達を促進して、CGRP神経機能を改善すると考えられる。
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