ペプチドはカテコルアミンと異なる種類のシナプス小胞に蓄えられており、異なる過程を経て遊離されると考えられる。本研究では、侵害情報を伝達するペプチド性神経伝達物質であり、末梢の疼痛刺激により脊髄後角において一次知覚神経終末部から遊離されるサブスタンスP(SP)と一次知覚神経に着目し、ペプチド遊離過程に携わる機構の解明を試みた。一次知覚神経細胞体の存在するラット脊髄後根神経節(DRG)細胞の初代培養を行い、前年度にSP生合成について培養DRG細胞の性質を明らかにし、生理的なペプチド遊離機構を有することを確認した。この標本を用いて平成10年度には次の成果を得た。 1. 培養DRG細胞に炎症に関与するサイトカインであるインターロイキン-1β (IL-1β)を添加すると、SP遊離誘発が観察された。この結果は炎症時痛覚伝達異常を説明しうるペプチド遊離調節機構への直接的作用と考えられそのメカニズムの検討を行った。 2. IL-1βのSP遊離作用はIL-1受容体を介し、Ca^<2+>依存的であった。また、IL-1βの作用はシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤(アスピリン、インドメタシン)、特に2つのCOXアイソフォームの内、誘導性COX-2合成と活性を阻害する薬物(NS-398、デキサメサゾン)で有意に抑制された。さらに培養DRG細胞においてIL-1βによりCOX-1mRNAは変化せず、COX-2mRNAが誘導された。従ってIL-1βの作用にはCOX-2を介したプロスタノイドシステムが関与していることがわかった。 3. これらのIL-1βの直接的ペプチド遊離誘発作用ははじめての知見であり、現在投稿中である。今後、SP遊離制御機構と痛覚伝達異常との関連性についてさらに詳細に検討する予定である。
|