ペプチドの遊離機構はカテコルアミンの場合といくつかの点で異なっていることが観察されているのみでほとんど解明されてない。サブスタンスP(SP)は、侵害情報を伝達するペプチド性神経伝達物質であり、末梢の疼痛刺激により、脊髄後角において一次知覚神経終末部から遊離される。本研究では、SPの遊離機構解明の目的で、一次知覚神経に着目し成熟ラット脊髄後根神経節(DRG)細胞の初代培養を行い、次の成果を得た。 1. 培養DRG細胞は神経成長因子(NGF)非存在下において生存可能であったが、細胞内SP出現にはNGFが必要であった。SP前駆体プレプロタキキニン(PPT)mRNAの3つのアイソフォーム(α-、β-、γ-)の内、培養DRG細胞にはγ-PPTmRNAが一番多く、次いでβ-PPTmRNAが存在し、α-PPTmRNAは検出できないほど少量であった。NGFによりβ、γ-PPTmRNA量の増加が観察された。従って、NGFは転写を促進することによりSPの生合成を誘発していることがわかった。 2. 培養DRG細胞に炎症に関与するサイトカインであるインターロイキン-1β(IL-1β)を添加すると、SP遊離誘発が観察された。IL-1βのSP遊離作用はIL-1受容体を介し、Ca2+依存的であった。また、IL-1βの作用はシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤、特に誘導性COX-2合成と活性を阻害する薬物(NS-398、dexamethasone)で有意に抑制された。さらにIL-1βによりCOX-1mRNAは変化せず、COX-2mRNAが誘導された。この結果はIL-1βによる炎症時痛覚伝達異常を説明しうる直接的作用と考えられ、現在投稿中である。今後、SP遊離制御機構と痛覚との関連性についてさらに詳細に検討する予定である。
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