研究代表者はこれまでに、種々の薬物が血液脳関門(BBB)の排出輸送系に認識され脳から積極的に排除されることを見出してきた。また、このことが薬物の脳移行制限機構として作動していることを報告してきた。今年度は、BBB排出輸送系を制御した新しい脳移行性改善法に関する研究の一環として、さらに数種の薬物についてのBBB排出動態について検討を加えた。 1) プリン合成阻害薬6-メルカプトプリン(6MP)は小児リンパ性白血病の寛解維持療法薬として使用されているが、中枢に浸潤した白血病細胞の増殖を阻止できないという欠点がある。この原因の一つとして、脳への分布が制限されていることが考えられたことから、今回6-MPのBBB排出動態について検討した。その結果、6-MPはBBBの有機アニオン輸送系とモノカルボン酸輸送系の両者に認識されて脳から積極的に排出されるという興味深い知見を得た。この結果については第9回日米生物薬剤学シンポジウムおよびJ.Pharmacol.Exp.Ther.に投稿した。2)アルツハイマー型痴呆症薬の開発は急務の課題であるが、すぐれた薬剤を開発するには薬理効果と脳移行性のバランスを保った創剤的工夫が必要である。今回の研究では、新規開発中のアセリルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬とその構造類似体について、BBB輸送能と分子構造との関連性について検討した。その結果、分子内のAChEに対する活性部位とは異なる部位の置換基を修飾することにより、BBBの輸送能が大きく変化することがわかった。その原因として、BBB排出輸送系への認識性が深く関与していることが推測された。これらの結果の一部は、日本薬学会、第118年会で発表した。3)本年度の研究の一つとして、塩基性線維芽細胞成長因子をモデル薬物としたペプチド性薬物の脳移行性改善法についても計画立案した。残念ながら、このペプチドにはBBB排出能が検出されなかったため、当初の目的を達成することができなかった。しかし、研究代表者はペプチドのBBB輸送能の改善法として、米国UCLA.Pardridge教授のもとで、BBB輸送ベクター抗体をペプチドに付加する手法を学び、本研究課題の達成に有益な情報を得た。 以上の研究成果は、本研究の課題であるBBB排出制御による新規脳移行性改善法の開発にとって、新たな知見と概念を提供するものと思われる。
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