血液脳関門(BBB)にはP-糖蛋白に代表されるような薬物排出ポンプが発現していて、多くの薬物を脳から血液側へと排除していることが明らかにされつつある。本研究の課題は、BBB排出輸送系に認識される薬物を見つけること、および薬物排出輸送系を制御した新しい脳移行性改善法を開発することであった。この課題を最終的な目標として、以下の検討を行った。1)6-メルカプトプリン(6-M)を服用している急性リンパ性白血病患者において、しばしば中枢性の再発がみられる。これは6-MPの脳移行性が制限されているためであると予想し、6-MPのBBB透過について検討した。その結果、6-MPはBBBの有機アニオン輸送系とモノカルボン酸輸送系に認識されて脳から積極的に排除されることがわかった。従って、プロベネシドなどを併用投与することにより、6-MPの脳への移行性が改善できるものと考えられた。2)近年、アルツハイマー病に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が有効であるとする臨床結果が報告されている。しかしながら、NSAIDsは一般に脳移行性が悪い。そこで、NSAIDsの一つであるケトプロフェン(KT)にグリセリドを付加したプロドラッグ(DAKG)を合成し、脳移行性が改善されるかについて検討した。その結果、DAKGはKTの血液側から脳への取り込みを改善することがわかった。さらに、プロベネシドを併用投与することで、脳内で生成したKTの排出をも抑えることができた。このことより、プロドラッグとBBB排出阻害剤との併用投与は、KTの脳移行性を改善する優れた方法であることが示唆された。 今回の研究で得られた知見は、中枢性薬剤の開発や中枢疾患の治療法に新たな視点を提供するものと考えられる。
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